国語の教科書に出てきた猟師とキツネの哀しくも切ない物語「ごんぎつね」の作者・新美南吉。
彼の心に染み入るような抒情的な詩は今でも読み継がれています。
最近、こんな本を知りまして、フラットだった心が脈を打ち始めたような衝撃を受けました。
でんでん虫のかなしみという詩です。
めっちゃ短い詩ですが、普遍的なことがサラッと描かれています。
↓インターネットの図書館「青空文庫」に原文が載っていました。(※合わせて挿絵も描いてみました。詩は転載フリーです)
新美南吉「デンデンムシノ カナシミ」
一匹のでんでん虫がありました。
ある日そのでんでん虫は大変なことに気がつきました。
「私は今までうっかりしていたけれど、私の背中の殻の中には悲しみがいっぱい詰まっているではないか。」この悲しみはどうしたらよいでしょう。 でんでん虫はお友達のでんでん虫のところにやって行きました。 「私はもう生きていられません」 とそのでんでん虫はお友達に言いました。
「何ですか」 とお友達のでんでん虫は聞きました。
「私は何という不幸せなものでしょう。私の背中の殻の中には悲しみがいっぱい詰まっているのです。」
と初めのでんでん虫が話しました。
するとお友達のでんでん虫は言いました。
「あなたばかりではありません。私の背中にも悲しみはいっぱいです。」
それじゃしかたないと思って、初めのでんでん虫は、別のお友達のところへ行きました。 するとそのお友達も言いました。
「あなたばかりじゃありません。私の背中にも悲しみはいっぱいです。」
同じことを言うのでありました。
そこで、初めのでんでん虫は気がつきました。
「悲しみは誰でも持っているのだ。私ばかりではないのだ。私は私の悲しみをこらえていかなきゃならない。」
そして、このでんでん虫はもう、嘆くのを止めたのであります。
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青空文庫 新美南吉「デンデンムシノ カナシミ」より ※リンク先の原文は片仮名ですが現代文に直しています。
誰でも”悲しみ”はある。周りに見せないだけ。
でんでん虫の”殻”とはつまり人の心そのものですよね。
殻の中にある”かなしみ”とは文字通り、誰の心にもある傷だったり辛いことだったり(黒歴史だったり)、あるいは自信のなさだったり、コンプレックスなどの誰に知られたくないことも当てはまるかもしれません。
でんでん虫は友達に聞くまで、自分”だけ”がかなしみを背負って苦しい思いをしているのだとてっきり信じていました。
しかし、周りのでんでん虫も自分と同じようなかなしみを抱えて生きているのだと知り、仕方ないと諦めつつもその言葉の陰にどこか吹っ切れたような清々しい余韻を感じさせます。
自分ばかり損をしているように思っていても、誰でもぞれぞれ辛いことや泣きたくなることの一つや二つあるわけで、それをうま〜く取り繕ってニコニコして周りに悟られないよう努めているんですよね。
喋ったこともないけどいつも元気そうなあの人だって、実はあなたと同じように悲しみを抱えて日々嫌なことがあってもテキトーにごまかして「元気ですよ〜^^」と取り繕っているだけかもしれません。
いつも涼しい顔して仕事をしているあなたを見て「あの人は悩みがなさそう…羨ましい」なんて思っているかもしれません。
自信がないときほど周りが良く見える
おそらく、み〜んな自分こそ、世界で一番情けなくて哀れでダサくて変わり者だと考えているんじゃないでしょうか。
他人の心は他人にしか分からず、あなたはあなた(自分)の心の中しか感じることができないから、きっとみんなそれぞれ、自分こそが世界で一番孤独なヤツだ!と考えているはず。
周りばかりが輝いているように見えてしまい、嫉妬したり羨ましくなったりした時は自分に自信を失いかけているよ〜という黄色信号かもしれませんね。
「でんでん虫のかなしみ」は決して、みんな寂しいのは一緒よ〜!あなたばかりじゃないよ〜チャンチャン♪なんて完結して読者を突き放すような内容ではありません。
↓作者の伝えたかったことは、おそらく最後の一文に集約されるのではないでしょうか。
「私は私の悲しみをこらえていかなきゃならない。」
文字通り、悲しみに耐えてこらえなくちゃなんて受け取らないこと。
悲しみなんて多かれ少なかれ誰にでもあるものなんだから、あなたのやり方でうまく乗り越えたり、時には時間に任せたり、ある時は昇華させたりして、うま〜く付き合っていけばいいんじゃない?…とまあ、気楽に捉えてみると意味が変わってきますね。
人は悲しみを避けて生きていくことも出来なければ、悲しみなしでは生きていけません。でも悲しみがなかったら人生ってどこか冷めててショボいものです。
光が強ければ影も濃いわけで、一見何一つ不自由なく過ごしてきたように見える人だって、人に言えない闇を抱えてそれと静かに向かい合ってうま〜く付き合っているもの。
ポジティヴで悩みがなさそうであっけらかんとしているあの人だって、逆境やスランプには強いかもしれないけど、愛するペットを亡くしたり、家族との離別だっていづれ経験するはずです。
悲しみがあったからこそ、普段の幸せがぐんと鮮やかになるし、「涙の数だけ強くなれるよ〜」なんて歌がありましたが、悲しみの数だけ人生の経験値のレベルをアップしてきたあなたはとても魅力的だと思います。
悲しみはウェルカムじゃないですが、あればあったで、あなたの人生を豊かにする糧になるのです。
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この名作「でんでん虫のかなしみ」を学校でたまたま読む機会があったうちの娘(中三)。
どう思う?と聞いてみたところ「カラオケでも行って発散すればいいんじゃね?」で完結しました。
ではでは。